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COLUMN / コラム

家具から始まる住まいの物語 —— 織田邸に学ぶ、時を編む暮らし

  • 2026.04.27
  • 30代コラム

先日、ふと目にした『織田邸の暮らし』という動画シリーズ。
名作椅子にあこがれて。vol.02 で紹介した織田コレクションの織田憲嗣氏。
その織田氏の、北海道の森に静かに佇む邸宅での日常を追ったものだった。

 

 

BGMはなく、自然の音だけでただただ静かに流れていく時。
夜には煌々とした灯りではなく、数々の間接照明が作り出す優しい灯りが織田邸を照らす。
その空間は思わずため息の出る美しさ。

 

仕事やプライベートのこと、漠然とした先々への不安を抱えている30代のわたしにとって、
その映像はまさに、将来の憧れの暮らしだった。

 

織田氏は高知県で生まれ、大阪芸術大学卒業後、

百貨店でイラストレーター、グラフィックデザイナーとして勤務。
その当時から収集をはじめた名作椅子とともに、北海道旭川に移住。

 

旭川の森にひっそりとある織田邸。
所有している家具からレイアウトやサイズを図面におこしていき完成された、

まさに家具からはじまったご自宅。
建築の世界では通常、外観や構造から設計が進むことが多いものだが、
織田邸は「どう座るか」「どこで光を感じるか」といった感覚から空間が組み立てられている。
インテリア主導の設計思想である。

 

家は見せるための箱ではなく、生きるための器である——そんな当たり前のことを、静かに思い出させてくれる。

 

窓から見えるカラマツの木立、時折訪れる野鳥やエゾリス。
そんな豊かな自然と共生している織田氏の暮らし。
莫大な数の家具・小物などのコレクションの管理から、庭の樹々や花々のお手入れ、

秋には厳しい冬に向かい薪集めなどの冬支度と、手間を惜しまず、季節に備える。

動画の中で繰り返し感じるのは、徹底した手入れと向き合い方。
一見すると面倒な行為の連なりだが、そのひとつひとつが、暮らしの密度を静かに押し上げているように思える。

 

正直に言えば、わたしは虫が大の苦手だし、寒いのも肉体労働も面倒なことも得意ではない。
それでもなお、どこかで「こんなふうに暮らしてみたい」と思ってしまう。
その矛盾こそが、この住まいの持つ引力なのかもしれない。

 

 

物との濃密な関係を築く「二生もの、三生もの」を選ぶ覚悟

織田邸には、世界中から集められた不朽の名作から比較的最近のアイテムまで、

時間の層が折り重なるように共存している。

名作家具やプリミティブなアイテム、選び抜かれた日用品の数々。
それらは単なるコレクションではない。
「研究用に集めた収蔵品を自分の生活の中で実際に使いたかった」と語るように、

すべてが日常の中で息づいている。

 

そして、その物たちを「あるべきところに」戻し、常に美しく保つための手入れを惜しまない。
まさに「使われるための美」。
この姿勢は、私たちが陥りがちな「流行・安いから」と安易に物を手に入れ、すぐに手放してしまう消費行動への問いかけのように感じられた。

 

織田氏は、家具についてこう語っている。
「二生もの、三生もの」「良いものは人に振る舞いを要求します」という言葉は、まさにその通りだと思う。
少々無理をしてでも良い物を選び、それを修理しながら長く愛用する。
そうすることで、物との間に濃密な関係が生まれ、結果として環境にも優しい選択となる。

これは、せわしない日々の中でも意識して取り入れたい、持続可能な暮らしのヒントではないでしょうか。

 

そしてこの“長い時を前提にした選択”こそが、

新品には出せない、滲み出る静かな説得力となり、空間に深みを与えているのだと思う。

 

 

空間を整え、心を整える

織田邸のもう一つの特徴は、数多くの物があるにもかかわらず、一切の雑然さを感じさせない空間の美しさにあるように思う。

 

「部屋の中が乱れていると、精神状態まで乱れてくるような気がします。僕は、あるべきところにものがあることが一番落ち着くんです」という言葉に、深く共感した。
帰宅した時に散らかった部屋を見、自分にがっかりし、軽く落ち込む経験を何度してきただろう。

 

多くの物に囲まれていながらも雑然さを感じさせないのは、すべての物に居場所が与えられ、

常に「スタンバイの状態」で整えられているから。

疲れて帰宅したとき、物理的な空間が整っていることは、そのまま心のゆとりへと直結する。

とはいえ、わかってはいてもなかなかできないのが現実。

掃除をする・整える・配置を考える
それは決して難しい特別な行為ではない。わかっている。
だが、織田邸のようにここまで丁寧に行われると、それは時間と意識を要するという意味で、

現代における贅沢だとも思えてくるほどだ。

 

わたしは完璧を目指すのではなく、まずは「使ったら戻す」という小さな一歩から始めよう。
できることからこつこつと。
そうすることで、物理的な空間だけでなく、心の空間にもゆとりが生まれると信じて。

 

 

未来の自分への贈り物

織田邸の魅力は、特別な豪華さではない。
むしろ、選び抜かれたものだけが静かに存在する、抑制された豊かさにあるように思える。
織田邸の暮らしは、決して特別なことではない。
むしろ、日々の営みの中にこそ「本質的な豊かさ」が宿ることを教えてくれる。

自然豊かな環境で、お気に入りの物に囲まれ、丁寧に手を動かす。

その一つ一つが、私たち現代人が忘れがちな、人間らしい暮らしの原点なのではないだろうか。

 

選び、使い、手入れし、積み重ねる。
その繰り返しの先にだけ現れる、ゆっくりと熟成された“暮らしの美”。

 

キャリアや結婚、子育てなど、人生の大きな転機を迎えることが多い30代。
そんな中で、自分らしい「丁寧な暮らし」の形を見つけることは、これからの人生を豊かにするための投資になるのかもしれない。

織田邸の暮らしから得たヒントを胸に、私も今日から少しずつ「丁寧な暮らし」を実践していきたい。

それはきっと、未来の自分への、素晴らしい贈り物になるはずだから。

 

 

 

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